医学の進歩によって、いろいろな検査や治療をすることが可能になった。しかし、それらがどれだけ有効かというと、実は行うよりも行わないほうが賢明であるという場合が結構ある。
今まで慣習的にやってきたことをあえてやらないこと、また技術的にできるのにわざとやらないこと、は結構難しい。その理由の一つには、医療者自身のなかにある慣れ、抵抗感、システムの問題etc に加え、患者さんが持つ抵抗感も無視できないものがあると感じる。
たとえば、これまで長年「子宮頸がんの予防・早期発見のためにパップスメア(子宮頚部細胞診)を毎年受けなさい。」という医療者の助言にまじめに従ってきた患者さんにとって、
「去年の結果がとても良好なので、今年と来年はパップスメアをしなくていいでしょう。」とか、
「あなたは子宮筋腫と月経過多という理由で子宮全摘出術を受けたので、今後のパップスメアは不要です。」
というような医療者の説明は、ともすると、「なんていいかげんなの!」と患者さんに誤解されかねない。あるいは「やる気のない医療者」というレッテルを貼られてしまうかもしれない。
検査はやればやるほどいいというものではなく、やることでむしろ害を引き起こしたり、見つけないでいいものまで見つけてしまってそれがさらに無用な検査や治療につながったり、またそれに伴う心的ダメージがばかにならなかったり、という面がある。やるからにはそれなりのメリットが大きくないといけない。けれど、短い診察時間のなかで、このニュアンスを説明するのって、とても難しい。
納得が得られたと思っても、「あー、やっぱり、私は不安なのでパップスメアしてください!」と懇願されたりもする。ある患者さんは、一旦家に帰ったあとで、「今回パップスメアをしてもらえなかったのは、どうしても納得がいかん。」と電話をしてきた。結局その方は後日また見えて、ディスカッションをしなおして、それでもやはり彼女の希望によりパップスメアをやった。この方の場合には、パップスメアの感覚をあけることに対する不安感が非常に大きかったので、「パップスメアをやった」という満足感をもってもらうことが総合的な意味ではよかったと思われる。
このウェブサイトには、一般の人向けに、検査や処置に関する 「○○はやめておきましょう」的な項目を集めていて興味深い。内容に関しては、各種の専門家学会が協力している。
http://www.choosingwisely.org
産婦人科に関係する項目はこちら
http://www.choosingwisely.org/doctor-patient-lists/american-college-of-obstetricians-and-gynecologists/
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