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2014年10月24日金曜日

ひさびさの更年期

大学内のクリニックで働くようになってからというもの、患者さんの顔ぶれは、17歳から30歳代、ときたま40歳代の患者さん、という感じであった。

最近、閉経後の患者さんとお会いする機会があり、とても新鮮だった。

問診票に、初経や月経周期に関する欄はあっても、閉経がいつだったかを書く場所がなかったですよ、と指摘された。まったくおっしゃる通り!

2014年5月21日水曜日

乳がん後の性交痛にリドカイン

先月末行われた米国産科医婦人会学会のカンファレンスに関するニュースをMedscape で読み、大変興味深かった。乳がんサバイバーの性交痛の治療として、水溶性リドカインを使ったという報告である。
Medscape の記事 http://www.medscape.com/viewarticle/824432
発表の抄録 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24770139

閉経後の性交痛に関してあまりなじみのない方のために、少し説明しよう。

閉経後、エストロジェン(女性ホルモン)の分泌低下により、膣を含む陰部の皮膚は薄く弱くなりやすい。そのため膣の乾燥、違和感、またセックスに痛みを感じる女性が増える。

通常、この状況を改善するには、エストロジェンを局所的に補う(膣錠、膣リング、クリームなど)のが第一選択。でも、乳がんを経験した人にとっては、たとえ局所的な利用であっても、エストロジェン剤は避けたいと思う人が少なくない。というのも、エストロジェンはいわば乳がんの進行を促進する「肥料」のように働く可能性があるから。

エストロジェン以外では、市販の膣用保湿剤、オリーブ油・Crisco (植物ベースのショートニング)などの植物油で保湿をはかったり、セックスのときは水溶性の潤滑剤を使う手があるが、なかなかエストロジェンほどの効果は期待できない。
以上で解説おわり。

さて、
今回の研究で Martha Goetsch氏ら研究チームは、46人の乳がんサバイバー(平均年齢55.63歳、閉経後の年数は平均8年)を対象に、二重盲検法で4%の水性リドカインもしくは生理食塩水をセックスの前に3分間使用するという方法をとった。リドカインとは、局所麻酔薬の一つ。

結果、リドカイン群で有意に性交痛(もしくはタンポン挿入時の痛み)が軽減したという。しかもパートナーからはリドカインの影響で感覚が麻痺したなどの悪影響は聞かれなかったと。研究開始した時点では46人中20人が性生活から離れていたが、そのうち17人は研究期間中に性生活を持ったとのことである。

膣のatrophy (萎縮)という環境改善をはかる代わりに、直接「痛み」に注目してなされた研究で、アイディアとしては単純(というか、ありそうでなかった)なんだが、実際に研究という形で検討したところが興味深い。研究の規模は小さいが、いま現に困っている患者さんに対しては、選択肢の一つとして提示するに十分値する方法だと思う。vulvodynia の患者さんにリドカインを使うことはあるのだし。

2014年5月20日火曜日

元患者さんからのリクエスト

ヨガ教室でよく会う、70歳代の女性のAさん。前職では私の患者さんだった。

私がヨガマットをくるくると巻いて片付けていると、Aさんがやって来て言った。

「あんたに見てもらお思ったら、こんどはどこに行ったらええんや?」

私:「ええと、Aさんが〇〇大学の学生さんになってくださったら、診察できるんですが。。(今私が働いているクリニックは〇〇大学の学生専用。)もう△△では働いていないんですよ。」

Aさん:「いまさら大学行くのは止めとくは。はっはっは。残念やなぁ。あんたの診察よかったのになー。」

そのように言って頂けたことを、大変ありがたく思う。そして、身が引き締まる。

婦人科の診察を受けるのは、たとえ若い人であっても決して快いことではない。婦人科の診察大好き!なんて人には今だかつてお目にかかったことはないし、今後もないだろう。

閉経後、膣萎縮がすすんでますますデリケートになった女性にとっては、婦人科の診察はなおさら苦痛なものになりかねない。だから、そういう年代のAさんに「あんたの診察よかった」とリクエストされるというのは、非常に大きいことなのだ。

ちなみに昨年Aさんの診察はサテライト診療所で行ったのだが、ディスポーザブルのプラスチック製の膣鏡を使うかわりに、特別に小児用の小さな膣鏡を用意しておいて使った。

ちなみに、Aさんの子宮頸がん検査の経過は過去ずっと良好で、しかも年齢も65歳を超えているので、子宮頸がん検査自体は今後はもう不要。もし今年も私がAさんの診察を担当していたら、尿漏れなどの失禁がないか、膣萎縮が生活に影響を及ぼしていないか(乾燥、痒み、セックスの痛みなど)などの話により時間をかけるところだ。あと、マンモグラムのオーダー。

Aさんが新しい医療者と出会えることを願う。もしくは、Aさんの家庭医が上記のことまで配慮してくれるようだったら(担当者によるかなぁ?)、家庭医に丸ごと担当してもらうというのも一案ではある。

2013年6月17日月曜日

膣萎縮に対する薬の価格

閉経に伴う膣・外陰部の萎縮症状の一つである性交痛を適応とする薬、Osphena について以前紹介した。
http://koimokko.blogspot.jp/2013/04/blog-post_16.html

今月号のPrescriber's Letterというニューズレター(オンラインもある)によると、Osphenaひと月分の の卸売価格の平均は160ドルだそうだ。ちなみに Vagifem (膣に直接投与するタイプのエストロゲン)のほうは75 ドルとのこと。保険のあるなしや保険の種類・内容によって薬の自己負担額はピンキリであるのがアメリカの現状なので、卸売り価格はあくまで参考までに。

更年期以降、エストロゲンという女性ホルモンの減少によって、膣・外陰部の皮膚はだんだん薄く、弱く、以前にも増してデリケートになる。次のウェブサイト(英語)では、薬以外の工夫、生活習慣についても一般の人向けに分かりやすく書いているのでおすすめだ。
http://www.mayoclinic.com/health/vaginal-atrophy/DS00770

膣の保湿剤(moistulizer)は膣の潤滑剤(lubricant)より長時間効果が続くというように違いが説明されている。そもそも目的が保湿剤の方が普段のうるおいのため、潤滑剤の方はおもにセックスを楽にするためにできているのだから、当然と言えば当然だ。

一つ書き加えるとしたら、保湿剤のほうがさらりとしていて、潤滑剤のように「固まった糊」のようになりにくい点。それと、オリーブオイルや Crisco (アメリカで一般的なショートニング)はセックス時の潤滑剤としては不適かもしれないが、保湿剤としてはかなり有効かつ安価である。市販の保湿剤には値段的に二の足を踏んでしまう患者さんにも受けがよいということも書いておく。

ところで、Osphena はの適応は「閉経に伴う膣・外陰部の萎縮症状の一つである性交痛」となっているが「乾燥・不快感」ではダメだったのかな、と個人的には思う。なんだかね、セックスにポイントを絞ったのが女性に対するプレッシャーのように思えたりするのだ。


2013年4月16日火曜日

閉経後の膣萎縮や性交痛に対する新薬

米国食品医薬品局は2月、閉経による膣・外陰部の萎縮の症状の一つである性交痛を適応とする薬、Osphena (一般名ospemifene)を認可した。
ロイター社の記事:http://www.reuters.com/article/2013/02/26/us-shionogi-drugapproval-idUSBRE91P0UR20130226


これまで非薬物療法(オリーブオイル、膣用保湿剤など)で十分な効果が得られない膣萎縮症に対しては、エストロゲン(女性ホルモン)を使うのが一般的であった。ジェル、クリーム、リング、錠剤などのエストロゲン剤を膣に局所的に利用する。とてもよく効く。


今回の薬ospemifeneの特徴は、エストロゲンではなく、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM = selective estrogen receptor modulator) であるという点が変わっている。つまり薬自体はエストロゲンでないけれど、エストロゲン受容体を刺激することであたかもエストロゲンを投与しているのと似たような効果を出すというわけだ。


「選択的」というのは、全身のあちこちにあるエストロゲン受容体のうち、ある臓器の受容体には積極的に作用して、また別の臓器には作用しない、という、いわば「好き嫌い」のあるようすを示している。


この薬は日本の塩野義製薬の米国子会社 Shionogi Inc.によって作られている。


先月26日には、ヨーロッパ医薬品庁も、この薬の販売承認申請を受理したとのこと。こちらの適応は閉経後膣萎縮症に対する薬として。
塩野義製薬ウェブサイトより:http://www.shionogi.co.jp/ir/news/detail/130327.pdf


感想:

  • 膣萎縮症の対応策がひとつ増えたことはいいことだと思う。
    非薬物療法(オリーブオイルや膣用保湿剤)、従来からあるエストロゲン製剤とならんで、第3の選択肢になるかな。
  • SERMの特徴を利用しているところがとても興味深い。
  • 乳がんの既往のある人は使うべきでない、と添付文書にある。まだこの点において十分な研究がないのだから仕方ないとは思う。が、一番この薬に興味を持つのは、estrogen-dependant ながんの既往のある人でないだろうか。SERMならではの特徴を今後の研究に期待したい。
  • 使用にあたっては、血栓症や子宮体がんのリスク、ほてりなどの副作用をよく知って、吟味しておきたい。エストロゲン療法と同様に丁寧なカウンセリングは必須とおもう。
  • 親会社の塩野義製薬は日本の会社だが、日本を飛び越して米国と欧州に先にアプローチしている。日本女性はほっとかれちゃった? 日本にも膣萎縮症に悩む人は少なくないと思う。話題にしにくいことだけに、ひっそりと耐えている女性が多いかもしれない。
  • 膣萎縮症の辛さは性交痛だけの問題ではないところを忘れてはいけないとおもう。デリケートな場所の皮膚の乾燥、弾力性の低下は、ひどい痒みや不快感、また膀胱炎の頻発にもつながる。更年期症状のうち、ほてりや発汗という症状は数ヶ月から数年でだんだん落ち着くことが多いのに対し、膣萎縮症はほっておいてよくなるということはあまりない。個人差は大きいが、年齢とともにだんだん進行することも多い。生活の質にとても影響するので、これからの高齢社会のなかでますます大事な領域だとおもう。
この記事を書くにあたって参考にしたウェブサイト
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm341128.htmhttp://www.osphena.comhttp://www.shionogi.co.jp/ir/news/detail/120628.pdf


追記: 2013年6月17日に関連記事を書きました。
こちらです。http://koimokko.blogspot.jp/2013/06/blog-post_17.html

2012年8月28日火曜日

ルチーンの診察内容に関する議論


子宮頸がん検診のために行うパップテスト(子宮頚部細胞診)は結果が良好であれば3年に1回でよいというガイドラインが浸透してきている。

それでは well-woman visit、いわゆる婦人科健診自体も3年に1回でいいのか、というとそうではない。そもそもwell-women visit は子宮頸がん予防だけが目的じゃない。予防的・健康教育的関わりのためには年1回の受診はとても意味がある。

年齢別押さえるべきポイントの例としては、10-20代の人にはHPV予防ワクチン、24-25歳以下の人や新しいパートナーのいる人にはクラミジア・淋菌感染症のスクリーニング、40歳以上の人には何も症状がなくてもマンモグラム、など。

症状・状況別の押さえるべきポイントとしては、避妊と性感染症予防のための介入、高血圧・メタボリック症候群の早期発見・リファー、更年期症状のアセスメントと対策、など。

ま、これらは診察する側からみた「必要性」であるが、会って話しあうことそのもののメリットに関しては、おおむね納得いただけるのではないかとおもう。

で、内診に関してはどうかというと、必ずしも毎年必要というものではない。内診によって、子宮や卵巣の異常を発見できることもあるが、卵巣がんに関して言うと、残念だが内診したからといって早期発見できるわけでもない。逆に、下手に内診をしたばかりに、患者さん本人にとっては大して問題となっていない子宮筋腫などを見つけてしまうこともある。 内診で何か異常があると、超音波検査などの画像診断に進むことが多いので、場合によっては、「無駄」な検査につながることもある。

20歳以下の女性の場合、もはやパップテストはしないし、クラミジア・淋菌感染症の検査を尿検体でできるから、膣鏡診や内診を行う必要性は特にない。もちろん下腹部痛があるとか、月経異常があるというなら別。  私の場合、今のところは職場のプロトコルに従って、20歳以下の患者さんにも膣鏡診&内診を行う場面が多い。

内診にしろ、その他の検査にしろ、行うことのメリットとデメリットを患者さんと話し合いつつ吟味して、年齢や症状の有無によってケースバイケースで、やるときもやらないときもあるというのが、ますますこれからのスタイルになっていくだろう。というか、そうしていくべきだろう。「婦人科=毎年股を広げてとにかくパップスメアするところ」 という時代はおしまい。

Medscape.com 経由で読んだ以下の記事はこの辺のことを考えるよい材料になった。

あとこの記事もよかった。
Obstetrics & Gynecology. 120(2, Part 1):421-424, August 2012.


2012年6月24日日曜日

更年期症状に対するホルモン療法

代表的な更年期の症状として、
1. 体のほてりや夜間の激しい発汗などに代表される血管運動性の症状、 と
2.膣の乾きやかゆみなどの萎縮性の症状  がある。

血管運動性の症状は、閉経前数年から閉経後数年〜10年程度で多くの人が落ち着くのに対して、膣や外陰部の萎縮性の変化は悲しいことにむしろ閉経から年数を追うごとにひどくなって行くことが多い。

今年北アメリカ更年期学会が出したホルモン療法に関するposition statement は、とても参考になる。Women's Health Initiative という10年前に訳あって途中で打ち切られた大規模な治験ほかこれまでの研究結果をおさらいし直して、ホルモン療法のメリットとデメリットを個々人の事情に合わせて考えるヒントをくれる。

個々人の事情というのは、症状の重症度、年齢、子宮があるかないか、心血管系の病気のリスクの有無や程度といったことだ。話し始めたらとても長くなるこの辺りのことを、患者さん向けにわかりやすい言葉でざっと説明してくれるたった2ページの資料がまたよい。http://www.menopause.org/psht12patient.pdf

ホルモン療法の優れた点は大いに評価されるべきだが、かといって、リスクの評価をせずに誰彼にでも使えるものではない。逆にリスクの少ない患者さんが、副作用を過剰に恐れるがあまりホルモン療法を拒み続け、辛い症状に耐え続けるのもまたせつない。

また、おなじ一人の患者さんでも、年齢を重ねたり、症状が変化したり、ほかの病気を患ったりなど、状況は変化して行くから、その都度治療法を見直して行く必要がある。