2009年9月27日日曜日

前兆(aura)を伴う偏頭痛 と 避妊法

過去の日記http://koimokko.blogspot.com/2009/08/blog-post_13.htmlに関して、かえるさんより質問がありました。

急なエストロジェンの降下がトリガーとなって、偏頭痛(片頭痛)の発作を起こすとは習いましたがアウラがあるとエストロジェン自体を排除した避妊方法になると走りませんでした。私はmonophasicだと一定量のエストロジェンを供給できるので、問題ないと思っていました。それとも、エストロジェン自体が Trigeminal nerveを刺激するのですか?

偏頭痛の超詳しいメカニズムはまだ解明されていないとしても、かえるさんがおっしゃるようにエストロジェンの降下が関連しているのは間違いなさそうです。

エストロジェン入りの避妊薬を使うことで、だれしもすこーし虚血性脳梗塞のリスクがあがりますが、もともと健康な女性に虚血性脳梗塞は極めてまれなので、すこーしリスクがあがったところで現実的には問題がないです。

では偏頭痛もちさんはどうか。偏頭痛のある人は、偏頭痛のないひとと比べて、虚血性脳梗塞のリスクが3.5倍くらい。このうちaura (頭痛が起こる前に現れる視覚症状、言語障害など)ありの人のリスクは3倍、aura のある人のリスクは6倍くらいと言われています。同じ偏頭痛もちでも、auraがあるかどうかで、リスクが違うのです。

ここにエストロジェンを含有するピル・パッチなどの避妊方法を加えると、さらにリスクが加わります。タバコを吸っている人はなおさらです。

WHOのクライテリアでは、aura のある偏頭痛もちさんにエストロジェン入りの避妊法を使うことは禁忌とされていますが、こちらを読んでいただくとわかるように、ガイドラインによって、見解に違いがあります。
http://www.arhp.org/Publications-and-Resources/Clinical-Fact-Sheets/women-and-migraine

いずれにしても、auraがない場合は、エストロジェン入りの薬を使ってOKというのが共通見解です。 エストロジェン入りのピル・パッチ・リングを使ったほうが、偏頭痛が減らせることも。ただし必ずよくなるわけでなく、特にプラセボ期間に症状が悪くなる(偏頭痛が起きる)こともあります。その場合は、プラセボが短いピル(Loestrin 24 Fe など)を使ったり、プラセボがより少ないピル(Seasonique, Seasonal, Lybrel)を使ったり、Nuvaring をring-free week なしで4週間ごとに交換する方法をとったりします。Seasonique などの長期間型ピルが保険でカバーされない場合は、カバーされるタイプの monophasic のピルのactive pillsだけ使うこともあります。これだと年間あたり13パックではなく15パック必要になりますが、患者さんのお金の負担はこの方が経済的ということもよくあります。

じゃ、auraありの患者さんはどうするか。progestin-only の方法、つまりprogestinだけ入っているピル、インプラノン、Mirena(IUD)、Depo Provera (注射)、それかホルモンと全く関係のない Paragard (銅負荷IUD)、またはバリア法ということになります。

しかしながら、若くて健康(特に心血管系の病気のない)な女性には、虚血性脳梗塞の起こるリスクがもともと極めてまれです。タバコすわない、既往歴・家族歴的にも問題がないーーそういう患者さんにはリスクとベネフィットを説明した上で、最終的に患者さんがエストロジェン入りの方法を選び取ることがないわけでもありません。相対リスク、絶対的リスクを数字を挙げて説明します。リスクが何倍になるか、ということよりも、10万人中何人のリスクから何人のリスクに増えるのか、ということのほうが考えやすいですから。

エストロジェン入りの方法をどうしても選択するとき、個人的には第1選択は Nuvaring です。15mcgなので、ピルよりもさらに低用量、使い方が簡単(毎日何かする手間がない)、血中のホルモンレベルが安定する(膣から一定量が吸収されるので)などいろいろメリットあるので。

4 件のコメント:

  1. こいもさん、わかり易く説明していただいてありがとう御座います。

    Trigeminal nerveとの関連性でなく脳梗塞との関係性でエストロジェン入りのピルを避けたほうがよいのですね。とても勉強になりました。Migraineが起こる前にCerebral ischemiaがおこり、その後そのRegionでHyperemiaが起こることによって頭痛が起こっているわけで、そこにさらにピルによってThrombosisを起こしやすくするのは脳梗塞のリスクを増長させることになりますよね。

    トパマックスは、避妊薬の効果を低下させる(CYP450の兼ね合いで)のでできることなら他の方法で偏頭痛予防したほうがいいのでしょうが、使っている人多いですよね。

    こいもさんのブログを知れてよかった!
    ありがとう!
    かえる

    返信削除
  2. かえるさん、
    トパマックスが必要な状態であれば、むしろ避妊法を変えることで調整することのほうが、現実には多いです。というか、私の場合は、たいてい患者さんがPCPのところでトパマックスを始めた後で患者さんと会うことが多いのでね。WHOのクライテリアでは、IUD(Mirena & Paragard)がカテゴリー1で、Depo Proveraがカテゴリー2で、それ以外のhormonal methods はカテゴリー3になっています。もしピルを使うのであれば、50mcgのピルでしょうね。けど用量を増やしたところでどこまで効果があるのかは未知数なのが厄介です。コンドームを併用しておいたほうが安心。また、偏頭痛もちさんに高用量のエストロジェンを投与するのはリスクを負荷するようでためらいがあります。(どうせCYP450で効果は現弱しちゃうわけですが。)

    返信削除
  3. こんにちはー
    本当に、勉強になります、かえるさんも小芋さんもありがとう!
    ところで、トパマックスは、pregnancy category Cですよね。。。だから、ますます、「万が一」トパマックス+estrogen contraceptive pillで妊娠が起こった場合、胎児への影響が心配で、まずーいことになるんですよね。

    私はmigraine with auraの患者さんに、(たとえtopamaxを服用している患者さんでも)contraceptive pill with estrogenの50mcg(!)を処方するのは個人的にものすごく怖いです。脳梗塞リスクが高すぎるような気がします。
    ケースバイケースでしょうけど。

    私はプライマリケアなので、産婦人科に紹介して、そっちでいいって言えばいいですーってことになると思いますけれど。

    返信削除
  4. migraine WITH aura でしたら、私はその時点で エスとロジェン入りの方法は極力避けます。migraine WITHOUT aura, もしくは他の理由(てんかんなど)で Topamax を使っている患者さんの場合には、 combined OCは使えなくはないけど、Topamax が CYP inducer であるという点に留意しないといけないので、やっぱり combined OC は勧められないです。

    余談になりますが、患者さんが「今年もピルの処方をよろしく。」とannnual exam にいらしたはいいけれど、過去何年も Tegretol (これもCYP inducer) と低用量ピルが同時に使われてきた様子をカルテ上で明らかになることがときどきあります。(出張先などで) そこから話をひっくり返すわたしの立場はたいへんです。今まで妊娠しなくてよかったですね、でもね、と話を始めないといけないから。

    返信削除