2014年7月9日水曜日

婦人科検診で内診をするべきか

American College of Physicians (米国内科学会)が、妊娠中でなく、かつ特に症状のない成人女性に対しては、ルチーンの内診は不要だ、とする臨床ガイドラインを出した。
http://annals.org/article.aspx?articleid=1884537

もちろん、子宮頸がん検診のときに膣鏡を使って子宮頚部を肉眼的に観察し、頚部の細胞を採取することは必要だ、としているが、その場合でも、双手診は不要だ、としている。双手診とは、片方の手をお腹の上に置き、もう片方の手を膣に入れ、両方の手で子宮や卵巣を”サンドウィッチ”するように行う内診のこと。

今回のガイドラインの土台になったのは、1946年から2014年までに英語で書かれた文献の、系統的レビュー。レビューの結果、結局内診しても、卵巣がんや細菌性膣炎の診断にメリットが特にあるわけでないことがわかり、また内診が卵巣がんによる死亡率や罹患率を下げる効果もないことが明らかになった、と。むしろ内診によって、かえって診断のしすぎ、治療のしすぎ、また余計な不安・羞恥心・痛み・不快感などを招いている、としている。

このガイドラインに対し、ACOG (米国産科医婦人科医学会)がどう言っているか見てみると、現在の科学では、無症状かつ低リスクの患者さんに内診をすべき・すべきでないという科学的根拠に乏しいのを踏まえた上で、するかしないかは個々の患者さんと診療する側が話し合って決めるべきだ、としている。
https://www.acog.org/About-ACOG/News-Room/College-Statements-and-Advisories/2014/ACOG-Practice-Advisory-on-Annual-Pelvic-Examination-Recommendations

その一方、ACOGは、内診することによって、性機能障害や尿漏れなどの問題を把握するきっかけになったり、解剖学を患者さんに説明したり、正常な様子を患者さんに伝えて安心を促したり、患者さんの質問に答えたり、といった科学的根拠には必ずしも上がってこない内診のお得感(?)もある、とアピールしている。

今回のACPガイドラインとそれに対するACOGのコメントを読んで小芋が思ったことは、次のとおり。

  • たしかに、内診がきっかけとなって、患者さんと更年期以降の患者さんの膣萎縮症状について自分から話題にあげたり、尿漏れや性器脱の発見に至ったりすることがないでもない。
  • しかし、患者さんにとってみたら、内診大好きなんて人は皆無であり、なかには内診のことを考えただけで受診を避けてしまう人もいるくらいだ。
  • 今回出たACPのガイドラインは「無症状の成人女性に対する内診には実は明らかなメリットはないんやで。過信すんな、むやみにやるな。」、ということを喚起してくれてて、注目に値すると思う。医療の基本は、Do no harm. (患者さんに害になることをするな。)である。
  • 子宮頸がん検診でも、最低限必要な膣鏡診だけにして、双手診をやらないとすると、骨盤エリアの診察の不快感のざっと半分はなくなるかも。それを歓迎する女性は多いだろう。
  • 婦人科の診察=内診付き、ではなく、主訴・自覚症状・年齢などを総合的に考えて、自分が内診不要だと思う場面では「やらなくていいとおもう」意を患者さんに伝えて行きたい。
  • 一方、問診のなかで、なんらかの問題が浮かび上がって来たときは、むしろ積極的に内診を勧めようとおもう。(極端に内診しないというポリシーに傾きすぎるのも危険。)
  • クラミジア・淋菌感染症の検体をとるときは、これまで以上に自己採取(膣部または尿で)を勧めていこうと思う。
  • ルチーンでやっていたことを止めるって、診療側にも患者さんにとっても、ともすると、はしょっているとか、さぼっている印象を招きかねない。内診をするにしろ、しないにしろ、メリットデメリットの説明を惜しまず、患者さんに安心感と満足感を持って帰ってもらいたい。

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