2014年5月21日水曜日

乳がん後の性交痛にリドカイン

先月末行われた米国産科医婦人会学会のカンファレンスに関するニュースをMedscape で読み、大変興味深かった。乳がんサバイバーの性交痛の治療として、水溶性リドカインを使ったという報告である。
Medscape の記事 http://www.medscape.com/viewarticle/824432
発表の抄録 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24770139

閉経後の性交痛に関してあまりなじみのない方のために、少し説明しよう。

閉経後、エストロジェン(女性ホルモン)の分泌低下により、膣を含む陰部の皮膚は薄く弱くなりやすい。そのため膣の乾燥、違和感、またセックスに痛みを感じる女性が増える。

通常、この状況を改善するには、エストロジェンを局所的に補う(膣錠、膣リング、クリームなど)のが第一選択。でも、乳がんを経験した人にとっては、たとえ局所的な利用であっても、エストロジェン剤は避けたいと思う人が少なくない。というのも、エストロジェンはいわば乳がんの進行を促進する「肥料」のように働く可能性があるから。

エストロジェン以外では、市販の膣用保湿剤、オリーブ油・Crisco (植物ベースのショートニング)などの植物油で保湿をはかったり、セックスのときは水溶性の潤滑剤を使う手があるが、なかなかエストロジェンほどの効果は期待できない。
以上で解説おわり。

さて、
今回の研究で Martha Goetsch氏ら研究チームは、46人の乳がんサバイバー(平均年齢55.63歳、閉経後の年数は平均8年)を対象に、二重盲検法で4%の水性リドカインもしくは生理食塩水をセックスの前に3分間使用するという方法をとった。リドカインとは、局所麻酔薬の一つ。

結果、リドカイン群で有意に性交痛(もしくはタンポン挿入時の痛み)が軽減したという。しかもパートナーからはリドカインの影響で感覚が麻痺したなどの悪影響は聞かれなかったと。研究開始した時点では46人中20人が性生活から離れていたが、そのうち17人は研究期間中に性生活を持ったとのことである。

膣のatrophy (萎縮)という環境改善をはかる代わりに、直接「痛み」に注目してなされた研究で、アイディアとしては単純(というか、ありそうでなかった)なんだが、実際に研究という形で検討したところが興味深い。研究の規模は小さいが、いま現に困っている患者さんに対しては、選択肢の一つとして提示するに十分値する方法だと思う。vulvodynia の患者さんにリドカインを使うことはあるのだし。

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