どのくらいの割合の学生がパートナーからの身体的・精神的・性的暴力を受けているか、またキャンパス内・キャンパス外の医療者が暴力のスクリーニングをしている(と学生が報告したか)か、といった研究データ自体には価値がある。表立っていないけど、実際に起こっている深刻な状況を浮かび上がらせるから。こういうデータはいくらあっても困らない。
けれども、そのデータをもとに、だからもっとスクリーニングをやらなければ!、という解釈には子芋は疑問を持つ。
スクリーニング自体は悪いことではないし、それに対応できるリソースも用意しておくべきだが、スクリーニングで「No」と出たら、「あーよかった。」と次の話題に進む、というやり方は限界がある。なんせ、3-4人に一人は何らかの暴力を受けた経験があるのである。スクリーニングで患者さんが「打ち明けた」ら、こう対応、というんではなくて、
打ち明けようが打ち明けまいが、暴力の経験があるかもしれない、という姿勢で望む(trauma-informed care)ほうが現実的である。病気の患者さんの採血をするときだけ手袋をするんじゃなくて、誰の採血をするときも手袋をはめる、ユニバーサルプリコーションと同じような考え方。
それから、杓子定規の「スクリーニングの質問」をするんでなくて、その時のシチュエーションから派生する質問の仕方をするほうが効果的である。(ただし簡単というわけじゃない。)
なんて、偉そうに書いているが、これらは子芋の新発見ではなく、暴力に関する研究者から教わったことである。
スクリーニングして暴力の被害者を見つけよう!という姿勢のかわりにできることはいろいろある。
- 「残念ながら暴力を経験している女性(男性も)はすごく多い。もしXXさん自身やお友達が何か困った状況にあったら、いつでもここに来てください。ここは安全なところです。」というメッセージを伝える。
- 「コンドームを使いたいと思っていても、実際の場面で使えなくて困っているという女性は少なくないです。XXさんの場合はいかがですか?」と尋ねたり、そこからパートナーにも気づかれずに使える避妊法の話に持って行ったり(たとえば銅付加IUDで、月経を止めずに避妊できる。性感染症は防げないけれど、少なくとも妊娠は防げる。リスクリダクション。)
- 主訴がたとえ「転んでヒザ擦りむいた」でも「ケガをして来られる患者さんの中には、パートナーにパンチされたり押し倒されたりしたゆえのケガの方が少なからずいらっしゃいます。」とふってみたり、
- 主訴が「のどの痛み」でも「のどの痛みで見える患者さんの中には、オーラルセックスでクラミジアに感染した方もいらっしゃいます。」といって、sexual history に話をもっていったり、やり方は無限。
そして、暴力の被害者を見つけ出すというミッションに重きを置かないほうが、不思議なもので、かえって打ち明けられたりする。
「身体的・精神的・性的暴力を受けたことがありますか?」という決まり文句では、そもそも本人が暴力を受けているという認識がないと、「はい」とは答えようがない。多くの人は、自分自身に暴力を受けた経験こそなくても、身近な家族や友達が暴力を受けているのを目撃したり、話に聞いたりしている。ゆえにあるいみ暴力にマヒしている可能性もある。
まとめ:
暴力のスクリーニング重視(早期発見&早期治療みたいな)の姿勢から、暴力が身近にあることを踏まえてのリスクリダクションにシフトしていきませんか、ということ。
スクリーニングの質問に対する「はい・いいえ」では拾いきれないほど巨大な問題に柔軟かつしたたかにタックルするために、クリエイティブな発想をしていきたい。
スクリーニングの質問に対する「はい・いいえ」では拾いきれないほど巨大な問題に柔軟かつしたたかにタックルするために、クリエイティブな発想をしていきたい。
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